▮お体の状態で変わる手摺りの取付け方
身体機能の状態は原因となる疾患により違いがでてきます。
原因別の特徴に合った手すりの取付けや住宅改修が必要になります。
◆片麻痺
左右どちらかの半身の麻痺で、運動だけでなく感覚の障害を併発します。
歩行時、方向転換時に体のバランスを崩しやすいため手すりは通常よりも高めが使いやすいです。
よこ手すりはおへその位置ぐらいを目安にします。
【階段での動き】
階段を上がる時…先に健足から上げる。
階段を下りる時…先に麻痺足から下ろす。
階段の手すりは麻痺のない手で持ちます。
上がる時、下りる時で持つ側が変わるので、階段手すりは両側につけるのが理想です。
正面を向いて下りずに、後ろ向きに下りる場合は、片側だけでも大丈夫です。
【浴室での動き】
浴槽へは健側から入ります。
立位でのまたぎ動作が出来ない時…バスボード等を利用して腰を下ろした状態で健側から入る。
利用者の身体機能と浴室の形状で、浴槽への浸かり方や浴槽からの出方は変わります。
入浴動作を確認した上で、健側の手で持てるように手すりの位置を決める必要があります。
【こんなことにも注意!】
・階段・浴室等の床は滑らないように工夫しましょう。
(ただし、滑らな過ぎるのも注意、麻痺足が引っ掛かります。)
・浴槽内で立ちあがりは、手すりを用いると安定します。
・片麻痺の方が手すりを利用する際は、片手で体を強く引き上げることもあるため、
手すりと壁の両方に十分な強度が必要です。
・安全にまたげる段差であれば、運動だと思って段差を残しましょう。
【入院中の場合】
脳卒中の後遺症による片麻痺で、退院に合わせて手すり設置を行う時は、病院や理学療法士(PT)、作業療法士(OT)等との連携が重要です。
家に戻っても安心して動ける動作環境を整え、身体機能の維持・向上を目指す住宅改修を行いましょう。
◆パーキンソン病
パーキンソン病は、脳内の細胞の変性によって、手足の震えや動作の緩慢(遅くなる)といった症状が現れる進行性の病気で、国指定の難病です。
中年以上に多く、歩幅が小刻みになる特徴的な歩行障害もみられます。
転倒や転落防止を考えた住宅改修プランを立てましょう。
【住宅改修前の準備】
廊下や階段、部屋の中の障害物になる荷物を片付けましょう。
その上で、転倒の恐れがある所に手すりなど体を支えるものを取り付けるようにしましょう。
【段差解消について】
床の段差解消は必要ですが、スロープの多用は避けましょう。
簡単にバランスを崩しやすくなるので、転倒する危険が増し、とくに歩いているときには前のめりの姿勢から元に戻せなくなるため、小走り状態でなり転倒するまで止まれなくなってしまうこともあるので、斜面を歩くと逆に危険です。
【住宅改修の方針】
薬の作用が効いている時と効いていない時でADL(日常生活動作)に差が出ます。
どちらに合わせて住宅改修をするかは、ご家族・理学療法士などと相談して決めしょう。
【手すりについて】
体が思うように動かない為、手すりをたくさん付けても上手く使えない場合があります。
床にテープを貼ったり、壁にたて手すりをつけ「目印」を作ることで、それを目標に体を動かすきっかけになるなど、「線の手すり」よりも「点の手すり」の方が効果がある場合があります。
【日常生活と運動】
日常生活がリハビリになります。
症状が進行するにつれて、歩行などの運動が困難になります。
体が思うように動かないことから、何事にも消極的になりがちですが体を動かさないでいると、筋肉や関節がますます動かなくなります。
薬物の服用の有無にかかわらず、なるべく日常生活に支障をきたさないような工夫や周囲の協力が必要になります。
たとえば、脱ぎ着がしやすく動作の邪魔にならないような靴や衣服や使いやすい食器選びや、いす、手すり、床に注意を払い、とくに転倒を予防することが大変重要になります。身のまわりのことを自分で行って、運動量の低下を防ぎつつ積極的に外出したり、住宅改修で気持ちを前向きにできる環境づくりを目指しましょう!
◆関節リウマチ
関節の内側にある滑膜(かつまく)に腫れや痛み、炎症が起きることで、最終的には関節の変形をきたす病気です。
両手・両足の指関節が朝こわばることから始まり、腫れと痛みがさまざまな関節に出現してきます。
住宅改修で注意したいことは
【進行性の疾患である】
・あまり進行せずに快方に向かう人
・徐々に進行する人
・急速に進行する人
…と程度は人によって様々ですが、小さな関節から大きな関節へ左右対称に進行していく疾患のため、将来を見越したプランニングも必要になります。
【関節に無理な負担をかけない住環境を整える】
手の指や手首、足の指のこわばりや腫れは初期からみられる症状です。
関節が腫れ、手や指に力が入らず、ものがつかみにくくなるので、症状にあわせた住宅改修を考える必要があります。
・玄関の上がりかまちでは、掴む手すりよりも平手すりや下駄箱に手を置いて体を
支えながらの段差昇降を考える
・上がりかまち段差が高ければ、踏み台を置き膝などの関節負担を軽減する
・足の痛みや変形で摺り足歩行になる場合は、小さな段差も解消する
・ドアノブは手のひらで開くことのできるフラット形状のレバーハンドルなどに交換する
◆変形性股関節症
変形性股関節症は、股関節軟骨の老化・擦り減りの為
関節の痛みや運動制限が起こる疾患です。
日常動作を無理のない姿勢で行い、できる限り股関節への負担の少ない生活環境に変える必要があります。
トイレ・浴室での立ち座り動作では手すりがあると患部への負担を軽減できます。
入浴の際はシャワーチェアや浴槽台を利用し、股関節を鋭角に曲げないようにしましょう。
手術を行った後であれば、股関節をひねる動きで脱臼しやすくなるので、浴槽のまたぎには注意が必要です。
バスボードで腰をかけて浴槽に入るなど、福祉用具も合わせてプランニングしましょう。
浴槽が深くてどうしても入れない場合は、浴槽の入れ替え工事も検討してみましょう。
◆骨折
高齢者の骨は若い人に比べてもろくなっているため骨折しやすくなります。高齢者が事故を起こす場所で一番多いところは居宅です。高齢者が骨折する原因は、ほとんどが転倒なので住環境の整備による予防が重要です。
【高齢者に多い骨折】
①手首(橈骨遠位端骨折)
➁肩(上腕骨外科頸骨折)
③腰(脊椎圧迫骨折)
➃股(大腿骨頸部骨折)
【骨折の予防】
転倒骨折を予防するためには、適度に運動して筋力をつけることやカルシウムを多く含む食事を摂り骨粗しょう症の予防が必要ですが、手すりも転倒予防に有効な手段になります。
転倒を誘発する危険な場所は意外と住んでいる本人は見つけにくいものです。
ご家族やケアマネさんが気付いてあげると転倒予防につながります。
◆認知症
認知症の人は、運動機能の低下や情報処理能力の障害などによって そうでない人の約2倍転びやすいと言われています。その為、転倒防止策としての手すり設置や段差解消が必要です。
ご本人と介助者の負担軽減を考えたプランニングを行いましょう。
住宅改修で注意したいことは、
【大きな変更を控える】
間取りの大きな変更で生活環境が変わると、混乱する可能性があります。
開き戸を引き戸に替える程度ならいいと思いますが、真ん中で折れる扉や特殊なドアに替えると使い方がわからなくなってしまうことがあります。
【工事中に在宅してもらう】
ご本人がデイホーム等に行っている間に工事をすることもあると思いますが、できれば、工事しているところを見て頂き家の中が変わることを確認してもらった方がいいと思います。
【手すりの形状は横手すりを優先】
たて手すりを握れるか、寄りかかりやすい平手すりにするかなど手すりの形状は慎重に選択しましょう。